これまでの制作では、生命のような感触と そのエネルギーから感じられる存在感を確かめるようなプロセスを経ながら、自分自身の経験や感覚の中では出会ったことのない、未知の感覚に出会うような体験を重ねてきたように思います。これは結果的に、視覚的にも「いきもの」のある意味「体」を意味するようなフォルムを生み出す事になりました。
新たに制作を試みた「Syn.」も、私自身と、私と関わる 私以外のすべての事柄の<存在>についての興味・・・という意味では大きな変化はないように思います。でも、「Syn.」の制作を始めた頃、いろいろな思考を重ねる中で、何か今までとは少し違う「尊さ」を感じる瞬間がありました。私自身を取り巻く色々な要素、これまで出会ってきた様々な「こと」・そこから感じる事や記憶すべてが、ある時は時系列に、でもあるときは無造作に重なりあって、しかもそれぞれはとても有機的に、そして自分にとっては整理がつかないほど、不可解に繋がり合い、そして何より確実に存在しているという事。
時間とも空間とも、また感覚の世界とも言えない、見えないけれど確かに存在しているそれらを、感じるままに表現してみたいと思いました。
制作の中で試行錯誤を重ねる中で、私の目の前に現れてきたものは、物体でもあり、空間でもあり、そのどちらでも無いように思えてきました。
地上に生まれるよりも遥か昔の記憶のようでもあり、生まれ出ようとする何かのようでもあり、根を張り巡らせる大樹のようでも、可憐な少女のようでも、枯れゆく花々のようでもあり。
宇宙や私自身を作り上げ動かしている、「芯=syn」のようなものがあるのではと思っていましたが、今回制作する事で、「心=syn」を作り上げる「真=syn」の要素は、すべての小さな繋がりを繋げようとする、存在を「信=syn」じる、肯定的なエネルギーの連鎖のようにも感じました。
数々の重なりや連なりによって、生かされている。
その感動に向き合う事で、ここから先の「新=syn」たな肯定的なエネルギーの連鎖が生まれる事を願っています。
制作の行程も、これまでのように 自分の感覚と手の感触に任せ、立体を作り上げるというプロセスの他に、糸状の素材などを新たに取り入れることで、柔らかなつながりの曲線・・・自分の意識ではコントロールしきれない有機的な「うねり」や「危うさ」を表現する手法も取り入れています。
Yuko Maruo|丸尾結子
これまで、丸尾が立体として制作してきた造形は、物理的には立体物の表面(外側)を作る手法でありながら、その内面から湧き出る「何か」が醸し出すエネルギーや生命感のようなもの感じさせる、といったものでした。
今回の新作では、物体としての表面にとらわれることなく、ある解釈では外側であり、またある見方によっては内側でもあるように、たとえば、気配とか存在の印象、コミュニケーションした時に発生する感情のようなものに迫るチャレンジのように思います。
仮に、生命体的な存在感を潜在的なテーマとかステージとして据えたとして、実際に今回の表現のヒントとなったのは、感覚とか、経験・体験による記憶とか、そうしたものが、単にリニアに または配列的に意識の中にあるわけではなく、あるものは重なりあったり、積み重ねになっていたり、でもそれらは互いに関係しあって連鎖してたりしているように思えることでした。優しさ、複雑さ、でもダイナミックに、そして生き物としてセクシーさのある存在感を空間の中に描く。結果的に、今回たどり着いた表現の手法としては、それらのエレメントが・・・
同期(Synchronization)していたり、
同じ意識が別の表現として感じられていたり(Synonym)
合成され新たな何かに影響しながら連鎖したり(Synthesize)
といったキーワードとの共通点を感じたので、
それらに共通した略語として、
Syn.
をタイトルとして選びました。
さらに、
Syn は日本語読みでは「しん」ですが、
これは
「心(こころ)」
「新(あららたな)」
「真(本当のこと)」
「信(信じる)」
など、とてもポジティブな意味合いの漢字の読み方でもあり、
今回丸尾の初めての海外個展でもありますので、
日本文化的な「言葉のサウンド」も意識されています。
Yuco Maruo solo exhibition
Syn.
仄かな重なりと揺らめきの連鎖
展期|2019年1月5日 (六) – 2月1日 (五)
地點|ホワイトストーンギャラリー · 台北 忠孝空間 〈台北市大安區忠孝東路四段7號13樓〉
https://www.whitestone-gallery.com/cn/contact/taipei/